FAVORITE CD

個性豊かなEMBGのメンバーたち・・・
彼らをそんな風にしてしまった名盤をご紹介します。
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すまけん

空中キャンプ(1995)/フィッシュマンズ

いわゆる世田谷三部作の1枚目。ここではないどこかに連れてってくれるタイプの音楽ですね。曲が良いのは間違いないんですが、フィッシュマンズのアルバムの中だと一番歌詞が好きで最小限の音数の中でボーカルの佐藤伸治が歌う歌詞が刺さります。このアルバムが今のところ一番好きです。


時間(2021)/betcover‼︎ 
       
柳瀬二郎のソロプロジェクト、betcover‼︎の作品で邦楽にしか出せない類のおどろおどろしさがあると言うか、表現が合ってるか分かんないですけどそんな感じです。めちゃカッコいいです。後出身が同じ調布市なんで応援してます。


Hatful of Hollow(1984)/The Smiths

コンピ版なんですけど高校時代にTSUTAYAで手に取ったアルバムでスミスの中では最初に聴いたし、一番聴いたんでこれにしました。ジョニーマーのギターをかなり楽しめるアルバムだと思います。モリッシーの歌詞は悲劇的な中にもひねくれまくったユーモアがあるのが魅力ですよね。とりあえずこれを聴いとけば間違いはないです...!


Grace(1994)/Jeff Buckley

早世したため生前のスタジオアルバムがこれだけとなってしまったJeff Buckleyの1stですが本当に奇跡の1枚だと思います。天使の歌声と称される彼の歌声や美しくどこか儚いメロディは本当に胸を打つものがあります。かなり暗いアルバムではあるので受験期によく聴いていて鬱々とした日々がより憂鬱なものにはなってましたが自分にとってはかなり大事な一枚です。 また蛇足ですが死後の2016年に発表されたYou&Iというアルバムでは彼の美しい歌声とアコースティックギターのみで聴けるスライやボブディラン、スミスのカバーなどが収録されておりこれらも素晴らしく本当に感動的です。


Yankee Hotel Foxtrot(2002)/Wilco

普遍的なロックバンドとしての魅力と実験的なサウンドが絶妙なバランスで成り立っているUSインディの名盤にして彼らの代表作です。最初は地味かなとも思ったんですけど、聴けば聴くほど新しい発見もあるし、より良く感じられるアルバムです。
 
まつもと

Led Zeppelin II / Led Zeppelin

Led Zeppelin のアルバムの中で一番ハードだと思うのを挙げました。臨場感とうねる感覚が本当にかっこよく、また気持ちいいです。ロックを超え、音楽全体の中で最強級のアルバムなのは間違いないです。


Electric Ladyland / The Jimi Hendrix Experience

ギタリストというとやっぱりこの人が究極なのかなと思います。Jimi Hendrixの卓越した即興能力により繰り広げられる生の演奏、生のギターサウンドは圧倒的なもので、特にこのアルバムの「Voodoo Chile」などでそれが強く感じられます。


Pearl Jam / Ten

グランジ四天王の一角、Pearl Jamのファーストアルバムです。サウンドとしてはハードロック的な要素が強く感じられます。強烈なグルーヴとEddie Vedderのボーカルがかっこいいです。個人的に推したいポイントはリードギタリストのMike McCreadyによる「Alive」や「Black」などによく表れたブルース色の強いプレイで、個人的に非常にセンスを感じています。


Rainbow / Rising

Vo. Ronnie James Dio, Gt. Ritchie Blackmore, Dr. Cozy Powell という大正義すぎるサウンドが展開されているアルバム。疾走するような部分は少ないものの、それがむしろRitchieのプレイにおいてDeep PurpleよりもRainbowで色濃く表れている荘厳さとCozyのパワフルなドラミングを際立たせているように感じます。


Emerson, Lake & Palmer / Brain Salad Surgery

僕はギターサウンドに集中して音楽を聴く傾向があり、ロックはギターなくしてはあり得ないと思っていました。このバンドがギタリストを欠いた構成であるというのを知って、ふざけたことをやっているなと思ったのですが、演奏を聴いてみるとクラシック要素を取り入れたサウンドの芸術性に感動せざるを得ませんでした。特に大作好きな僕にとって「Karn Evil 9」は最高の曲でした。


         

船本

口上:取り上げたいアルバムが多く、5枚を選出するのは非常に困難でしたが、できるだけ年代が幅広くなるように選出いたしました。


Tangerine Dream / Kaleidoscope(1967)

サイケデリック・ロックブームの真っ只中に発表されたこのTangerine Dreamは(この単語を見てAlpha Centauri,Rubycon,Edgar Froeseといった単語を連想したそこのオタク、静かに挙手しなさい)個人的にはUKサイケデリック・ロックを代表する一枚だと思っています。

受験生時代、塾にいく途中、某unionに立ち寄った際にこのアルバムを新着中古レコードコーナーにて見つけました。以前から屈指のレア盤として本作のことは知っており、楽曲を聴いたことはありませんでしたが、そのサイケ感満載なジャケットからして確実に自分の好みなタイプの音楽だろうと興味を抱いていました。店頭で見つけたのは1987年の再発盤(一応オフィシャル再発ですが、バンドメンバーの許可は得ていません)で、1650円と手を出しやすい値段だったため迷わず購入しました。(同じく1969年の大名作2nd “Faintly Blowing”も売られていたため購入しました。こちらも1stに勝るとも劣らない大名盤ですので是非聴いてみてください)

家に帰り再生してみると、バンド名通りの万華鏡のようなそのカラフルなサウンドにただただ圧倒されるばかりでした。本作のサウンドは、サイケデリック・ロックを基調としながらも、フォーク、ブリティッシュ・ビート、バロック音楽など様々なジャンルの音楽が溶け込み合った、色彩豊かでドリーミーなもので、50年以上経過した現在においても、その美しさは全く色褪せていません。

バンド名をそのまま冠した、名刺代わりとも言えるポップな”Kaleidoscope(1)”, 感動すら覚えるほどに美しいメロディとサイケ感の強いサウンドの絡みに圧倒される彼らの代表曲”Dive Into Yesterday(3)”, 飛行機事故を題材にした幻想的なシングルカット曲”Flight from Ashiya(5)”, 本作の中で最もポップで聴きやすく、”The Hollies”, “The Move”といったバンドとの類似性も感じられる”Holidaymaker(9)”, ラストを飾る約8分の大作であり、独特の浮遊感のある白昼夢のようなサウンドがとても心地良く、まさしくTangerine Dreamといった世界観の大名曲”Sky Children(11)” といった楽曲は非常にバラエティに富んでおり聴いていて飽きることがありません。

作品の素晴らしさに反して、彼らの知名度、とりわけ日本における知名度は非常に低いです。名盤ランキングなどで選出されることはほぼ皆無で、The Beatlesの “Sgt. Pepper‘s Lonely Hearts Club Band”以後を代表するサイケデリック・ロックアルバムとしても、The Zombiesの “Odyssey & Oracle”(神盤,1968)や、The Holliesの“Butterfly”(神盤2,1967)の影に隠れてしまっています。この文章が、少しでも彼らの音楽に触れる人が増えるきっかけとなることを願ってやみません。


Hunky Dory / David Bowie(1971)

David Bowieの作品を初めて耳にしたのは中学2年生の時です。当時通っていたレコード屋で1978年のライブアルバム”Stage”を見つけた時でした。もちろん彼の名前自体は知っていたため、興味を持って試聴してみるとその格好良さに驚きました。音楽をあまり聴いていなかった当時の自分でも、”Hang On To Yourself”, “Star”などのストレートなロックンロール曲の良さはすぐに感じました。それからというもの自分は一気にDavid Bowieにのめり込んでいき、そのハマり様はDavid Bowieに関する本を夏の海浜学校に持っていくほどでした。David Bowieの音楽性はアルバムによって様々なので、多くの人にとって何かしら刺さる作品があると思います。

ここからは”Hunky Dory”について書きますが、好きな作品が多すぎて1番好きな作品を選ぶことはできなかったため、今回はたまたま”Hunky Dory”を選んだだけという感じです。David Bowieの多くの作品のなかで、どれか一枚を挙げるとなると次作の”The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars(1972)”, ベルリン三部作中の”Low(1977)”, “Heroes(1977)”辺りを選ぶ人が多いと思います。これらの作品に比べると本作の知名度は本当に若干落ちるのではないかと思いますが、これらに勝るとも劣らない大名作です。本作は彼の4thアルバムにあたり、前作からの飛躍を明らかに感じる、Bowie黄金期の幕開けとも言える作品です。

時期的にはグラム・ロック隆盛期の作品として紹介されることが多いですが、 T-REXの”Metal Guru”などに代表される様な、典型的なグラム・ロックのキラキラしたサウンドは本作からはあまり感じらず、(強いていえば”Queen Bitch”がグラム・ロックっぽいくらいでしょうか)むしろ本作からは伝統的なBritish Rockアルバムの趣を感じます。時代とともにその音楽性を常に変化させていったBowieのスタイルの表れとも言える”Changes(1)”,製作当時生まれたばかりだった息子Zowieのことを歌った”Kooks(5)”, 自殺してしまった義兄がテーマとされる”The Bewlay Brothers(11)”などが収録されていることから、非常にパーソナルな一面を持ったアルバムと捉えることもできると思います。本作の中でも自分が特に好きなのは”Life On Mars(4)”です。Frank Sinatraの”My Way”のコード進行を引用していることでも有名な本曲の美しさは筆舌に尽くしがたく、Bowieの全キャリア内でも屈指の名曲だと思います。”Life On Mars”を聴くたびに、この曲は完全に60年代の曲ではないという印象を抱きます。具体的に何が違うというのは分からないのですが(録音技術などの問題もあると思います)、1969年以前の曲とは決定的に何かが違うと思います。自分の中で本作は1960年代と1970年代の転換点の象徴的な存在です。


Hunting High And Low / A-ha(1985)

※A-haを”Take On Me”だけのバンドだと思っているそこのあなた!ちょっと待ってください!A-haを過小評価していませんか?

「私、今までA-haのこと誤解してたのかも知れない…」「俺、正直言うと”Take On Me”だけの一発屋アイドルバンドだと思ってたんだよね…」などなど少しでも思い当たる点がありましたら、お気軽にご相談ください!お電話お待ちしております!


少々脱線してしまいましたが、上記の内容はまんざら冗談ではありません。A-haと言えば”Take on Me”だけの一発屋という認識を持っている方々も少なくないのではないでしょうか。また、メンバーのクールなルックスも逆に災いし、アイドルバンドとして見られてしまうことも多いです。この現状は非常にもったいないことであるように思います。

A-haとの出会いは、自分が中学一年生のころ、007シリーズの第15作「リビング・デイライツ(1987)」を見た時でした。A-haは本作のテーマ曲”Living Daylights”を手掛けており、長年007シリーズの音楽を手掛けてきたJohn BarryとA-haがタッグを組んだ本曲は、従来の007シリーズにおけるテーマ曲にも通じる、ハードボイルドな雰囲気を持ちつつも、A-haらしさが遺憾無く発揮された大名曲で、一気に虜になってしまいました(初めて買ったレコードは”Living Daylights”のシングルでした)。

それから間も無くして、A-haの1stアルバム、”Hunting High And Low”を購入しました。本作には、彼らの代表作であるデビューシングル、”Take On Me”ももちろん収録されていますが、本作の魅力はそこだけではないと思います。ドラマチックな名バラード”Hunting High and Low(3)”, 広く澄んだ空を彷彿とさせる清涼感を持った”Blue Sky(4)”, イギリスでは”Take On Me”よりも上位にチャートインしたもう一つの代表曲”The Sun Always Shines On TV(6)”, 最高にキャッチーな”Love Is Reason(8)”などなど本作の魅力は語り尽くせません。

彼らを単なる一発屋として片付けてしまうのは、とんでもない間違いです。New WaveやIndie, Alternativeといった音楽ジャンルの枠組みからは漏れてしまいがちなバンドであるだけに、アルバム全体として語られることはあまりない作品ですが、80sポップミュージックとしてはこれ以上ない最高の作品であると個人的には思います。


Pulp / Different Class(1995)

Pulpに出会ったのは中学3年生だったと思います。それ以前は80年代の音楽から聴き始めたためか、なぜか90年代の音楽に対して、抵抗感を持っており、90年代以降の音楽はあまり聴いておらず、80年代から60年代へと時代を遡り続けるばかりでした。

そんなある日、Pulpの”Babies”(Gift Records時代のシングル曲で、Gift Records時代の音源を集めた編集盤,”Intro”などに収録。”Intro”は”Different Class”に勝るとも劣らない必聴盤です。本曲は後に4thアルバム"His 'N' Hers"にも収録されます)がYoutubeのオススメ動画としてたまたま表示されました。サムネイルに惹かれ興味半分で再生してみると、そのあまりの良さに「!?」となり、すぐさまベスト盤”Hits”のCDを、今は亡きかつてのDisk Union新宿中古センターへと買いに走りました。(本来ならすぐさまレコードで買いたいところですが、90年代のレコードはプレス数が少なく高騰しているため、とりあえずはCDで手を打ちました)帰宅後早速CDを再生してみると、1曲目に前述のBabiesが流れました。この一曲のためだけでも十分買った価値があったなあと満足していたその時、事件は起こりました。”Babies”が終わり、2曲目に収録されている”Razzmatazz”のイントロが流れ始めたのです。その時の衝撃はそれまでの音楽体験の中でも特に大きなものでした。Roxy Musicなどに通ずる、 哀愁を感じさせるロマンチックなメロディ、ナルシスティックなボーカル、煌びやかなサウンド、どれをとっても完璧でした。「これこそが自分が求めていた曲だ!!!」と思うと同時に、「電撃が走ったような」とはまさにこのことだと感じました。

その後程なくして、彼らの代表作にしてBrit Popというムーヴメントを代表する大傑作である5thアルバム”Different Class”をオリジナル盤のレコードで手にする機会に恵まれました。5年ほど経過した今でも、最も大切なレコードの一つです。本作のサウンドは、”Babies”, “Razzmatazz”といったGift Recordsに残したシングル群や、前作”His ’N’ Hers”の延長線上にある煌びやかながらどこか陰りのあるもので、それがBrit Pop全盛期の高揚感と組み合わさり、独特の明るくも暗いサウンドに仕上がっています。 また本作には”Class”と”Love”という一貫したテーマがあると思います。イギリスに存在する階級社会を、ユーモラスに皮肉っぽく揶揄しながら、ごく普通の人々の一風変わった恋愛模様をロマンチックに、恥ずかしいほど素直に描くというのが本作の歌詞の基本です。ここまで歌詞にイギリスらしさが表れているバンドもなかなかいないのではないかと思います。

社会に適合できない者たちの反撃宣言”Mis-Shapes(1)”, 一般庶民である主人公が、セレブなギリシャ人のお嬢様と出会い、「自分もcommon peopleみたいに暮らしてみたい」と脳天気なことを言ってくる彼女を「君は絶対にcommon peopleにはなれない」と皮肉る代表曲”Common People(3, ボーカルJarvis Cockerの実体験が元となっている)”, 独身男性である主人公が、すでに結婚し家庭を持つ幼馴染のデボラという女性のことを忘れられず、 「君の赤ちゃんを連れてきてもいいから会ってくれ」と彼女に懇願する”Disco 2000(5)”, 恋を不気味な存在と感じ理解に苦しむ主人公の姿を描いた”F.E.E.L.I.N.G.C.A.L.L.E.D.L.O.V.E (9)”など、歌詞・サウンドともに多種多様で、聴く者を飽きさせません。

また、本作を語る際に忘れてはならないのが、凝りに凝ったアートワークです。一般的には、ごく普通の結婚式の集合写真にメンバーの写真をコラージュしたものが流通していますが、1995年当時のイギリスオリジナル盤CD,LP限定で、6枚のインサートの表裏合わせて合計12種類の着せ替え可能なアートワークが付属していたのです。それらはいずれも、イギリスのごく普通の日常風景に、モノクロのメンバー写真をコラージュしたもので、なんとも形容し難い魅力を持っています。CD,LPを購入する際は、ぜひこれらのオリジナル盤を探してみてください。

本作はその圧倒的な完成度をもって、Brit Popというムーヴメントの最高到達点を示す一枚となりました。しかし、と同時に本作(そして同月に発表されたOasis/“Morning Glory”, 前年に発表されたBlur/“Parklife”)は、Brit Popの限界を示す作品でもあったと言うことができ、1996年以降Brit Popはそれまでの盛り上がりが嘘であったかのように急速に収束していくこととなります。


The National / I Am Easy To Find(2019)

自分は中学一年生から意識的に音楽を聴くようになり、本作が発表された当時はそれからすでに5年以上が経過していました。前述のDavid Bowie, Pulpなどのアーティストはすでに聴いており、そのほかにも自分の好みに合った多くのアーティストをすでに知ることができていると思っていました。しかし、それが全くの間違いであったとは、2019年当時の自分には知る由もなかったのです。

The Nationalに興味をもったのは、なんの気無しにミュージック・マガジンを読んでいた時でした。そこには当時の最新作であった本作”I Am Easy To Find”のレビューが掲載されていました。以前から彼らの名前は知っており、一度聴いてみようと思ったこともありました。ですが彼らのあまりにも普通の中年男性じみたルックスから、どうせ古臭くてダサいロックをやってるオヤジ達だろうと思い込み敬遠し、聴かずじまいになっていたのでした。(その時の自分には怒りすら覚えます)しかし、本作のシンプルでありながらモダンで美しいジャケットに惹かれ、試しに聴いてみるかと思い立ちYoutubeで彼らのMVを検索し、最初に聴いたのが何を隠そう、2013年の6thアルバム”Trouble Will Find Me”収録の”Sea of Love”でした。初めて聴いた時の印象は、思ったより自分の好きなタイプのサウンドでいい曲だな程度のものでした。その時はまだ”Sea of Love”の真の魅力に気づけていなかったのです。初めて聴いてからというもの、何かクセになるものがあり、”Sea of Love”,以外にも“Graceless”, “Mr. November”といった彼らの代表曲を聴き続けていました。

そして気づいた時には、収録曲を一曲も知らない状態で、最新作の本作をとりあえずamazonで購入していたのでした。レコードが到着するとまずそのジャケットの美しさに目を奪われました。本作のレコードは、紙製のgatefold式ジャケットが、”I AM EASY TO FIND”の題字入りのPVCビニールに収納されているという仕様で、ジャケット単体でも十分アート作品として成立可能なほど素晴らしいものです。デラックス版のレコードは、盤の色が赤・黄・グレー1枚ずつの3枚組で、これもまた見るだけで楽しめます。

本作を再生すると、いきなり1曲目”You Had Your Soul With You”の耳を擘くようなギターが響き渡り、衝撃とともに一気に虜になってしまいました。そのサウンドは驚くほど緻密でありながら、ロックの持つ刺激的な要素も本曲は持ち合わせており、これこそが最新のロックなのだなと痛感しました。その後も、清涼感のかたまりのような”Quiet Light(2)”, ギタリストBryan Dessnerの妻であるMina TindleとMatt Berninger の掛け合いに感動を禁じ得ない”Oblivions(4)”, 本作一の激しさを持ったMatt Bernigerのボーカルが印象的な”The Pull of You(5)”など次々に名曲が押し寄せてきます。普通のアルバムであれば自分にとってのベストトラックになるであろう曲ばかりで圧倒されたことをよく覚えています。7曲目にはタイトルトラック”I Am Easy To Find”が登場します。この曲及び本作のタイトルは6thアルバム”Trouble Will Find Me”収録の”Hard To Find”と呼応するもので、合わせて聴くことでより一層楽しめます。続くBrooklyn Youth Chorusをフィーチャーした小品”Her Father In The Pool”を挟んだ、”Where Is Her Head(9)”ではアルバム一の盛り上がりを迎えます。本曲はEve Owenによるボーカルをフィーチャーしており、Matt BeringerのSpoken Word調のボーカルが組み合わさる様は圧巻で、ハイライトの一つと言えるでしょう。その後”Not In Kansas(10)”, “So Far So Fast(11)”と6分超の長尺曲が2曲続きます。”First two Strokes”や”R.E.M.”といった固有名詞が多く登場し、Matt Berningerの自伝的要素を持った前者、Matt BeriningerがメインボーカルをLisa Hanniganが務め、透き通ったサウンドとの絡みが圧巻な後者、どちらもその世界観に引き込まれる名曲です。再びBrooklyn Youth Chorusをフィーチャーした”Dust Swirls in Strange Light(12)”を挟み、”Hairpin Turns(13)”が続きます。本曲ではただでさえ低いMatt Berningerのボーカルが、その中でも低いパートと高いパートに分かれており、それらが重なり合う様は非常に美しいです。また、そこにLisa Hanniganの”And I’ll keep my eyes open”というボーカルが加わることでその美しさは一層際立ちます。次に印象的なドラムパターンから始まる”Rylan(14)”が登場します。本曲は2010年ごろからライブではたびたび演奏されており、ファンの間では人気の高い幻の曲でした。それがついにアルバムに収録されることとなったのです。既存の曲ながら、本作の一貫したテーマから外れることはなく、本作のハイライトの一つとも言える存在になっています。三度、Brooklyn Youth Chorusをフィーチャーした”Underwater(15)”が登場し、ほぼピアノとボーカル、ストリングスのみで構成された”Light Years(16)”でアルバムは幕を閉じます。本曲は、収録曲の中では比較的早い段階から完成しており、2018年のライブでも披露されていました。非常にシンプルな構成ながら、その美しさは並大抵ではなく、これを聞いて感動しない人がいるのだろうかと疑問を抱かせるほどです。

本作を語る上で忘れてはならないのが、Mike Mills監督による同名の短編映画の存在です。アルバムジャケットにもフィーチャーされたAlicia Vikanderがたった1人で、特殊メイクなどを使用せずに、女性の一生を演じきる名演が非常に印象的な全編モノクロの作品です。本映画のサウンドトラックは多少アレンジされたI Am Easy To Findの楽曲で構成されており、中にはアルバム未収録のものもあります。1人の女性が、人生における様々な局面に向き合いながら成長する過程と楽曲の歌詞がリンクしていく様は非常に芸術的です。Mike Mills監督やNationalのメンバーによると、映画とアルバムは、アルバムが映画よサントラであるというように、どちらかが一方のために存在するのではなく、それぞれが独立した存在であるとのことです。本アルバムの3枚組デラックス盤レコードのE面には映画の音声部分のみがフルで収録されており、こちらも必聴です。この音源を聴く以前には音声のみで映画を鑑賞するという経験はそれまでありませんでしたが、飽きることなく20分が過ぎてしまい新鮮だったのを覚えています。またF面には音源は収録されておらず、アルバムジャケットのように寝るAlicia Vikanderの姿がエッチング加工されておりこちらも美しいです。

発売から3年が経過した今でも本作の芸術的な完成度に圧倒され続ける日々を過ごしています。また本原稿を執筆時(2022.9)の数週間前にはNationalの久々の新曲"Weird Goodbyes"がリリースされました。Bon Iverをフィーチャーしたこの楽曲はNationalの新境地ともいえるメロディアスかつ先進的サウンドの楽曲で2022年のベストトラック大本命ともいえる傑作でした。2022年末あるいは2023年初頭にはI Am Easy To Find以来の新作もリリースされるとのことで今から非常に楽しみです。新作のリリースを控えNational熱が世界的に高まっている今こそ、是非とも彼らの作品に触れてみてはいかがでしょうか。

この文章が彼らの作品を少しでも多くの人に知ってもらえる助けになれば、これほど嬉しいことはありません。


長々と失礼いたしました。
船本
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